詐欺師Nの思い出~驚嘆とかすかな恐怖
「センターの過去問なんてやってません。そんな時間なかったんです」
ワタシの問いに生徒は答えました。繰り返しますが、このクラスは理系の某国立大志望者のクラスで、古文はセンター試験で用いるだけなのです。ワタシは、ちょっと意表をつかれました。「えっ・・・・!?。だって、君、センター試験のために古文の勉強をしてるんでしょ。センターの過去問やらないで、他に何やるの?」「N先生の出す宿題が多すぎて、古文の勉強は他の事できないんです。なあ」。同意を求められた他の子達がうなづきます。「宿題って・・・、何だソレ?いったい、N先生はどんなふうに授業を進めてるの?」
生徒達から聞き出したNの授業は驚くべきものでした。まず、Nは授業開始時に過去のどこかの大学の入試問題の一部を印刷したプリントを配るのだそうです。「今から、この問題を一分以内でやれ!」。一部分とは言え、入試問題なのですから、一分で出来るわけがありません。そこで、Nは、おもむろに「公式」の説明を始めるのだそうです。「みんなが出来なかったのは、この公式を知らなかったからだ。この公式を知っていれば、ホラ、一分で解けるぞ」。続いて、やはり、入試問題を何問か印刷したプリントを配布します。「今の公式で、みんなもやってみろ。一問一分で解けるはずだ」。今度は生徒もスラスラ解けます。生徒はみんな感嘆します。「じゃあ、ウチへ帰ってこの公式の復習をしてきなさい」。「宿題」が渡されます。やはり、入試問題が何問も載っているプリントです。生徒は、家へ帰って、宿題の入試問題を数多く解きます。Nの公式を使うと、不思議なくらいにスラスラ解けます。「うーーん、N先生の公式はスゴい!!」
こんな授業を受けたら、誰だってNの信者になってしまうでしょう。タネも仕掛けもなしにこんな授業が出来たら、本当に「受験の神様」です。もちろん、コレにはちゃんとタネも仕掛けもあります。生徒達は気づかないでしょう。Nの配布した入試問題からは、あらかじめNの「公式」で解けない問題は排除されており、「公式」で解ける問題だけがピックアップされているなんてことは。「問題をたくさん解いているので安心してました」とは、生徒の正直な感想です。ごもっとも。
この話を聞いて、ワタシは驚嘆と同時に何だかヘンな感じを受けました。考えてみると確かにNの方法は巧妙です。入試問題を大量に解いているという安心感と引き換えに、生徒達から自分で考える意志と時間を奪い、思い通りに生徒を操る、いうなれば生徒を奴隷化するのですから、ある意味、予備校屋にとって理想的な方法です。生徒全員が自分に隷属するのですから、間違いなく超人気講師になれます。もちろん、「教育」を捨てることと引き換えではありますが。
ワタシの問いに生徒は答えました。繰り返しますが、このクラスは理系の某国立大志望者のクラスで、古文はセンター試験で用いるだけなのです。ワタシは、ちょっと意表をつかれました。「えっ・・・・!?。だって、君、センター試験のために古文の勉強をしてるんでしょ。センターの過去問やらないで、他に何やるの?」「N先生の出す宿題が多すぎて、古文の勉強は他の事できないんです。なあ」。同意を求められた他の子達がうなづきます。「宿題って・・・、何だソレ?いったい、N先生はどんなふうに授業を進めてるの?」
生徒達から聞き出したNの授業は驚くべきものでした。まず、Nは授業開始時に過去のどこかの大学の入試問題の一部を印刷したプリントを配るのだそうです。「今から、この問題を一分以内でやれ!」。一部分とは言え、入試問題なのですから、一分で出来るわけがありません。そこで、Nは、おもむろに「公式」の説明を始めるのだそうです。「みんなが出来なかったのは、この公式を知らなかったからだ。この公式を知っていれば、ホラ、一分で解けるぞ」。続いて、やはり、入試問題を何問か印刷したプリントを配布します。「今の公式で、みんなもやってみろ。一問一分で解けるはずだ」。今度は生徒もスラスラ解けます。生徒はみんな感嘆します。「じゃあ、ウチへ帰ってこの公式の復習をしてきなさい」。「宿題」が渡されます。やはり、入試問題が何問も載っているプリントです。生徒は、家へ帰って、宿題の入試問題を数多く解きます。Nの公式を使うと、不思議なくらいにスラスラ解けます。「うーーん、N先生の公式はスゴい!!」
こんな授業を受けたら、誰だってNの信者になってしまうでしょう。タネも仕掛けもなしにこんな授業が出来たら、本当に「受験の神様」です。もちろん、コレにはちゃんとタネも仕掛けもあります。生徒達は気づかないでしょう。Nの配布した入試問題からは、あらかじめNの「公式」で解けない問題は排除されており、「公式」で解ける問題だけがピックアップされているなんてことは。「問題をたくさん解いているので安心してました」とは、生徒の正直な感想です。ごもっとも。
この話を聞いて、ワタシは驚嘆と同時に何だかヘンな感じを受けました。考えてみると確かにNの方法は巧妙です。入試問題を大量に解いているという安心感と引き換えに、生徒達から自分で考える意志と時間を奪い、思い通りに生徒を操る、いうなれば生徒を奴隷化するのですから、ある意味、予備校屋にとって理想的な方法です。生徒全員が自分に隷属するのですから、間違いなく超人気講師になれます。もちろん、「教育」を捨てることと引き換えではありますが。
しかし、この方法、誰でも出来る方法ではありません。大変な労力がいるからです。なにしろ、あるテーマに沿った入試の過去問を集める作業というのは、ワタシなどもやったことがありますが、大変です。加えて、Nの場合、そうやって集めた入試問題から、自分の「公式」で解けない問題を排除せねばなりません。Nの「公式」でキレイに解ける問題など、五~六割でしょう。集めた問題から四~五割のものを排除して、なおかつ、生徒に余計な時間を与えないだけの問題量を確保するのは、並や大抵のことではありません。
しかも、問題選別の過程で、自分の「公式」で解けない問題を大量に目にすることになります。つまり、身に沁みて自分の「公式」の欠陥が判るわけです。ですから、これは生徒を騙すための作業だと熟知しつつ、なおも執拗に問題を集め、コピーと切り貼りで大量のプリントを作り続けたことになります。その偏執的で陰湿で邪悪な意志を思うと、ワタシはかすかな恐怖を感じないわけにいかないのでした。
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