詐欺師Nの思い出~突破口
Nの方法は、専門的に見れば穴だらけです。なにしろ、通常であれば、「~のようになりやすい」と教えるべきところを全部、「100%の公式だ!」と断言してしまうのですから。Nの教えの全てに反例を見つけるのは簡単なことです。しかし、その全てを、生徒の前で一つ一つ否定していくのは、時間も掛かる上、生徒達に煩雑さを感じさせてマイナスです。何か決定的なポイント一つに絞る方が効果的に説得できるはずです。そして、そのポイントは、効果的な反例を生徒達に簡単に示せるものでなければなりません。
ワタシは、Nの「主語の公式」というのに目をつけました。これは、実はもともと某有名講師Xの「公式」なのですが、Nは、それをほぼそのまま生徒に教えていました。Nの「主語の公式」とは次のようなものです。
「地の文で、『已然形+ば、連体形+を、連体形+に、已然形+ど、已然形+ども』があったら、その前後では100%主語が変わる。『て』の前後では主語が100%変わらない」
この「公式」は、かなり付け込む隙があります。後半の「『て』の前後で・・・」という部分は比較的実現する確率が高く、反例を見つけるのは大変なのですが、前半は・・・。この部分、実現する確率は、せいぜい六分四分です(そのため、某有名講師Aでさえ、この「公式」を用いません)。
この公式に似たことを我々も教えます。ワタシが教えるとこうなります。
「接続助詞には、文を区切ってまとめる力の弱い助詞とまとめる力の強い助詞がある。弱いのは『て・で・つつ』。この三つは、区切る力が弱いので、前後が一続きのものと感じられ、そのため主語などの人物関係が変化しにくい。一方、区切る力の強い助詞「ば・ど・に・を・が・ども」などは、そこまでの叙述を区切ってまとめてしまうため、前後の内容が独立したまとまったものと感じられる。よって、これらの助詞があったら、主語は考え直さないといけない」
これは、Nの公式と明らかに違います。Nは、「ば・ど・に・を・ども」で100%主語が変わると言っています。一方ワタシの方は、「ば・ど・に・を・が・ども」の前後は「独立」、つまり、「ば・ど・に・を・が・ども」を挟んだら、次の主語は何になるか判らないと言っているのです。これは、現代語で説明するとこうなります。「ば・ど・に・を・が・ども」は、順接確定条件や逆接確定条件を表す助詞ですから、現代語で言うと「~ので」や「~のに」に当たります。現代語の「~ので」や「~のに」の前後の主語は、変わるでしょうか、変わらないでしょうか。ちょっと考えれば、「どちらとも言えない」が正解であることは容易に理解できると思います。もし、その前後で100%主語が変わるのなら、「オレは疲れたので帰ります」「ベットに入ったのに眠れない」なんて言い方はどうなっちゃうの?!
というわけで、この公式の反例は簡単に見つかります。問題は、効果的で生徒に簡単に示せる反例があるかどうかなのですが、ありました。しかも、それは、Nが本来使用しなければならない教材の第一課の一行目にあったのです。『伊勢物語』第六段でした。
昔、男ありけり。女のえ得まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、からうじて盗み出て、いと暗きに来けり。 (昔、男がいた。女で自分のものに出来そうになかった人を、長年、求婚し続けたが、やっとのことで盗み出して、とても暗い夜に逃げて来た)
「よばひわたりけるを(求婚し続けたが)」と「からうじて盗み出て(やっとのことで盗みだして)」は、明らかに、ともに「男」が主語です。
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コメント
こんにちは。わたしが通っている高校の国語の先生が作ったプリントに次のように書いてあったのですが、これは間違いなのでしょうか?
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主語の転換判別法
ルール1
て・で・つつ 主語が変わらない。
ば・を・に 主語が転換される。客体(目的語)が主語になる。
ルール2
人名の直後に、読点「、」があるときは、主語を表す。
ルール3
挿入句に注意する。(ルール1の矛盾はここから起きる)
ルール4
会話に注意する。
会話内外の動詞の転換に注意する …V…」とV
命令形は相手が主語
ルール5
名詞を修飾する用言に注意する。
人走る。 … 走る人。
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また、同じ先生が作った別のプリントにも次のように書いてありました。
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主語展開表
①「人名」+「、」=主語
②主語が変わらない(98%)て、で、つつ、ながら
③主語が変る (98%)ば
→主語と目的語とが交替する場合が多い。
④主語が変りやすい(66%)を、に
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投稿: ふくろう | 2014年9月28日 (日) 15時32分
多分、その先生は、このブログで何回か取り上げている某有名講師Aの参考書(2006.5.10「句読点幻想二」2006.7.8「ヨレヨレの終講」など)か、または同じくAの学校向け文法副教材(2008.6.26「誤謬と欺瞞の連鎖」)の支持者の方なんだと思います。
ルール1ルール2に関しては、「そうなることが多い」くらいに考えましょう。その際、98%というのは危険です。某有名講師Aさんでさえ、実際の授業では、90%に下げなさいと指示するんだそうですから(2006.5.10「タイムリーな質問」)。
「て・で・つつ」の前後の主語に関しては、変わらないことが大変多いので、例外を発見するのは難しいかもしれませんが、「ば」で主語が変わらない例などは、ちょっと教科書をその気になって読めば、いくらでもみつかります。自分で例外を発見して、先生の所へ質問に行ってやる、というくらいのつもりで勉強してみてください。それは、きっと、あなたのためになるでしょう。
投稿: Mumyo | 2014年9月28日 (日) 18時59分
やはりそうなんですね。うちの学校は県内では有数の進学校で、しかもその先生は国語科主任なんですよ。そのような先生の指導であっても、信頼できない部分があるということなんですね。結局のところ、主語については、文脈によってしか最終的な判定ができないということなんですね。
投稿: ふくろう | 2014年9月30日 (火) 22時19分
実は私も、「県内では有数の進学校で、しかもその先生は国語科主任」になったことはありました。概してそういう学校では、悲しいかな、進路実績にばかり力が入り、最小の時間で最大の効率をあげることが至上課題になってしまうのです。そうなると、教員、生徒ともに安易な公式的なルールに頼りがちになり、結果このようなプリントを作り、教えるようになるのです。そもそも98%とか66%とか、何をもってそのような数字が出るのか、ちょっと考えたら不思議だなあと思うはずです。確かにわかりやすいといえばわかりやすいのですが、大事なのは決してこういう公式を鵜呑みにしてはいけないということです。
この無名講師さんのブログは、たいへんためになり、受験勉強の合間にのぞいてみるといいと思います。
「自分で例外を発見して、先生の所へ質問に行ってやる、というくらいのつもりで勉強してみてください。」、そこで高校の先生はどういうふうに答えるか、ある意味先生の力量が試される質問にはなるでしょうが、誠実で謙虚な先生ならば大歓迎してくださるはずです。
投稿: ニラ爺 | 2014年10月 1日 (水) 09時22分
>ニラ爺さん
ありがとうございます。「現場」の方におっしゃっていただけると、説得力がありますね。~o~
>ふくろうさん
ワタシは、あたなの先生を存じ上げないので、何とも判断のしようがないのですが、もし、生徒の質問に対して「誠実に謙虚」に対応してくれそうな方だったら、センター試験の冒頭部分を持って行って質問してみるのも良いと思います。
しかし、あなたから見て、質問に行くのには敷居が高そうな先生だったら…。
質問に行って先生を困らせると、あなたに不利益なことが発生する可能性があります。その場合、あなたが全てをしょい込む必要はありません。質問には行かずに、親しいお友達にだけ、「ルール1と2は、そうなりやすい程度のことらしい」と教えてあげたら良いと思います。
投稿: Mumyo | 2014年10月 1日 (水) 09時34分