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2006年4月22日 (土)

詐欺師Nの思い出~突然の快晴

 その日は突然やってきました。その地方校舎の入り口を入った時から、なんだか様子が何時もと違いました。校舎のあちこちで職員や生徒がコソコソと立ち話をしています。講師控え室へ入って行くなり、近寄って来た別の教科の先生が小声で教えてくれました。「聞きましたか。Nが逮捕されたって」

 「タイホ」という言葉の意味が判るまで何回か聞き直しました。司直による裁きのための当局による拉致、けーさつにつかまること・・・。

 Nは、これまで、この校舎で、詐欺的な授業を展開してきました。その時に彼の用いた巧みな弁舌、大胆な演技力、資料集めの偏執的な執拗さ、それらの全ての資質をフルに使って、彼はある犯罪行為を常習的に行っていたのです。その犯罪についての詳細は、差し支えもあろうと思われますので、ここでは述べません。彼の詐欺的授業の、ほんの八十二倍ほど下劣な犯罪とでも言っておきましょう。当局は、その都市で頻発するその犯罪に対して、かなり前から容疑者を絞り込んでいたらしいのです。そして、ある秋の日、突然、何の前触れもなく、彼は我々の世界から暗い所へと連行されたのです。

 授業の合間に校舎の外へ出たくなったワタシは、この突然の秋晴れの空気を吸い込み、紺碧の空を見上げました。「天網恢恢疎にして漏らさず」という言葉が、自然と浮かびました。本当に絶妙のタイミング、他には有り得ない経緯です。「天」というのは本当に見ているのかと、その時、思いました。実際には、当局が見ていたわけですが・・・。

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