述べて作らぬ歌姫~平原綾香『4つのL』
平原綾香のニューアルバム『4つのL』をしばらく前からヘビロテしています。イヤハヤ、やっぱり「あーや」はスゴいわ。
『4つのL』は、最初と最後にNHKトリノオリンピック放送テーマ曲の『誓い』を異なったバージョンで収録しているのですが、そのため、お見事に全曲のバックに、オリンピックの物語が見えてきてしまいます。トリノとは全く無関係の「子供を救おう!未来を守ろうキャンペーンソング」であるはずの『スタートライン』を聞くと、負傷を乗り越えた皆川賢太郎のスーパーランが見えてきます。「采雲国物語」のオープニングテーマ曲『はじまりの風』の背後には、爽やかに戦ったカーリング娘の健闘が見えてきます。そして、何といっても、『誓い』で見えてくるのは、荒川静香とイナバウアー!~o~
トリノの物語をアルバム全体に纏わせることによって、スポーツの感動を一曲一曲に被らせてしまう、コレって狙ってやったことだと思うんですよね。だから、オリンピックのイメージを意識的に遮断して聞くと、何だかアルバムのテーマがボケてしまうように感じます。実は、このアルバム自体は、テーマや物語を持っていません。にもかかわらず、アルバム全体が感動的に仕上がっているのは、オリンピックの世界を纏っていることと平原綾香の超絶的な歌唱力の賜物でしょう。
例えば、ゲームソフト「大神」のテーマ曲『Reset』は、和風のアレンジで桜散る情景を歌いますが、詩自体は耳触りの良い言葉を並べただけの空虚なものです。しかし、あーやが歌うと何故か詩になってるんですよ。大変なヴォーカルテクニックです。
しかし、彼女は自分の物語を紡ぎ出すことが出来ません。彼女の作詞になる作品が、このアルバムには七曲も含まれているのですが、いずれも、品の良い着想を得て耳触りの良い言葉を選び佳品に仕上がっているものの、詩自体に物語や思想を伝える力はありません。作詞家としての彼女は何も創り出していないと言っても良いでしょう。にもかかわらずにもかかわらず、これだけ感動的なアルバムになっているは、繰り返しますが背後に纏ったトリノの物語とその感動を引き出す彼女の超絶的歌唱力の賜物です。
この事は、ちょうど、彼女のデビュー曲にして最大の名曲『ジュピター』を、あれだけの名曲たらしめていたのが背後に纏った難病の少女の物語であった事と、正確に見合っていると言えるでしょう。平原綾香は、何も物語を創り出しません。しかし、背後に控えた現実の圧倒的な物語を、彼女の歌唱は本当に感動的に語り尽くします。述べて作らぬ歌姫、それは密かに儒教的でさえあります。
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