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2006年5月10日 (水)

句読点幻想その二

 質問を受けた後、ちょっと気になって某有名講師Aの参考書を調べてみたら、やはり、ありました。某有名講師Aの参考書には、「接続のいろいろ」という章があります。このこと自体は問題ないのですが、そこに、助動詞の接続などと並んで、「記号の接続」という項目があり、「読点の直前は、原則として連用形です。『連用形、』と覚えましょう。」などと書いてあります。

 この部分、まともな古文教師には、まず発想できません。というのは、句読点が続くことを普通は「接続」と呼ばないからです。昨日も述べたように句読点は現代語の記号です。句読点やカギ括弧が付くことを接続と呼ぶのは、レタスを乗せたトレーを「野菜」と呼ぶようなものです。八百屋さんがトレーを絶対に「野菜」と考えないように、我々にとって、「句読点の接続」という発想は驚天動地の発想なのです。

 大学で古典文学をちょっとマジメに勉強すれば、句読点もカギ括弧も濁点もついていない古典作品の写本を目にする機会があるはずです。我々は、そういう物を通じて、これらの記号が古典作品プロパーとは本来無縁の、単なる「入れ物」であることを実感させられます。ちょうど、レタス畑を一度でも見れば、レタスにとってトレーが異質の物であると実感できるように。だから、句読点を古文の一部であるかのように扱う発想には全くついていけないのです。このAという人、某J大学の国文科を卒業しているはずなんですがねえ・・・。

 しかも、この「句読点の接続」という項目は、受験生にとってもマイナスです。昨日も書いたように句読点の使用箇所はテキストや問題によって微妙に異なります。折角覚えた「接続」が、句読点を施す出題者の感覚によってズレてしまうかもしれません。そして、何より一番マズいのは、この「接続」は、折角覚えておいても入試問題を解くのに使うチャンスがほぼ皆無だということでしょう。連用形中止法の部分の活用形を問うなどという問題、出されたのを見たことがないもの。仮にあったとしても、その動詞の活用を考えりゃ活用形を割り出すのは難しくないしねえ。

 某有名講師Aの参考書には、この他にも句読点関係のオカしな記述が見られます。例えば、

 「人物の直後に読点があるとき、98%主語になる」

 繰り返しますが、句読点てのは、出題者の感覚で位置がズレるんです。例えば、「昔、男、ありけり」とするか「昔、男ありけり」とするかは、あくまでも出題者の好みなのです。それをどうやって「98%」って数えたんでせうかねへ・・・。~_~;;;;;

 受験ということを離れて考えた時にも、この句読点を古文の一部と考えるような感覚を身につけてしまった生徒さん達は、何処かで恥を掻くことになるのではないかと思います。その子達が国文学科や日本文学科などという専門を選ばないことを祈るばかりです。

 それにしても、こんな本が売れているってどういうことなんでしょう。こんな本を推薦する大○鹿モンの高校教師がいたりする現状って・・・。今回のことで一番恐ろしいのは、昨日の質問の生徒が直接Aの本を読んだのではなく、どこやらの中小の「塾」で教わっているということです。Aのこのデタラメの教えをマトモに信じている教師がいるってことです。つまり、Aの教えはこれから先、鼠算式に拡散していくのかも・・・。

 <後日記>

 「ニラ爺さん」さんがコメントを寄せてくださった書籍に関しては、2008.6.26の「誤謬と欺瞞の連鎖」に詳しい記事があります。

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コメント

 この本に関しては苦い思い出があります。当時勤めていた学校では、この本を全員に買わせ、授業中は必携、ことあるたびに、この本に当たらせ、生徒に説明するという授業が展開されていました。古語辞典を開かせるのではなく、この本の説明を絶対視するという授業です。
 私自身は、同僚たちのそんな授業にはとうていついていかれず、むしろこの文法書の問題点を指摘し、何かというと批判していました。
 ところが、授業アンケートでは、「文法書を批判ばかりしていても建設的ではない。古語辞典ばかり引かせやがって」と書かれ、愕然とした覚えがあります。
 つまり、「こんな本を推薦する大○鹿モンの高校教師が」高く評価されているのが現状なのです。授業アンケートではいつも評価が低く、左遷されたのはいうまでもありません。

投稿: ニラ爺 | 2013年8月12日 (月) 11時23分

 おそろしい話ですね。
ああいう本を採用されてしまうと、個人の力で出来ることは限られてしまいます。

 ワタシゃ、組織で動く学校には全く不向きな人間なので、そういうお話を聞くと、つくづく予備校屋で良かったと思います。

投稿: Mumyo | 2013年8月12日 (月) 22時16分

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