「僕と君」の彼岸~YUI 『I remember you』
丸沼詣でのない久々の週末、のんべんだらりと過ごしてます。昨日、みっくんさんからコメントをいただいて、急にYUIのことが気になり出し、『I remember you』をヘビロテしています。良い曲だと思います。相変わらず歌上手いし。
しかし、この曲、実はちょっと気になることがあります。YUIのファーストアルバム『From me to you』については以前、このブログに、「彼女は、常に自分の内面を向いていて、自己の内面と他者とのズレを不機嫌そうな声で歌う」(06'4/4「不機嫌な内向ロック」参照)と書いたことがあります。そのため、『From me・・・』における彼女の楽曲は、『I know』の一曲を除いては一人称の歌でした。『Feel my soul』は「僕」で書かれているけど、これは架空の「僕」ではなく、YUI自身の投影された「僕」で、やはり一人称の歌だったと思うのです。一人称の「僕」と「君」の歌です。
ところが、『I remember you』は、海辺で出会った彼女と別れたサーファーの少年の歌です。明らかなフィクションの歌なんです。YUIってこんな歌も作れたんですねえ。私小説のように自分の内面を歌い続けるアーティストなのかと思っていました。そして、それゆえに彼女のアーティストとしての将来に不安を感じていました。
「こういう内向的な天才少女って、ある程度自分の内面を歌いきってしまうと、材料不足に陥って燃え尽きてしまうのではという不安があります」と4/4のブログでは書きました。それゆえに彼女を取り巻く環境の変化にも不安を感じていました。外部との健全な断絶関係が崩れた時、彼女の創作活動は著しく渋滞するのではないかと。
天才川本真琴も越えられず、才能無尽蔵と思われた椎名林檎でさえ、もしかして越えきれないかもしれない川。自己の内面世界に材料をとり、内面を抉って臓腑をさらすような創作を行うアーティストが必ず直面する一人称と三人称との間を流れる暗い川。かつて、あの偉大な井上陽水だって、初期の一人称の時代から暗い何年かの時間を経て、独特の言語感覚と抽象化を武器にしてその川を越え、新しい作風を手に入れたんじゃないかと思うんです。
最初からフィクションの物語を語る才能を持っている人達は別です。ユーミンや中島みゆきなんかは、そんな苦労は一切しなかったでしょう。最初から彼女達は、自己の内面を材料になんかしていないから。彼女達は、最初から三人称の歌しか歌ってこなかったんです。
でも、内面を描くことからスタートしたアーティストの場合、作風を変えるのは大変です。そのために彼らは若くして燃え尽き、消えていくのだと思います。私小説家は自分の実人生を破滅させていきますし、ある種のギャグ漫画家なども若くして燃え尽きて消えていきます。自己の内面を消費し尽してしまうからです。
『From me・・・』を聞いた時、そんな匂いをチラリと感じたのですが、取り越し苦労だったのでしょうか。彼女は「僕と君」の彼岸へ無事に渡りきれたのでしょうか。次のアルバムが待たれるところだと思います。
ただ、もし、彼女が彼岸に渡りきれたとして、我々リスナーはどうするのでしょう。もしかして、今までのように強く痛切な言葉の響きを持つ楽曲には、もう出会えないのかもしれません。さてはて、どうしたものか。
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コメント
こんばんは、またまた書いちゃいます。「タイヨウのうた」の映画を撮ってたときに、彼女の中で何かあったのかもしれないですね。本人は自覚があんまりないそうですが(表現力が豊かになった、とはいってましたけど)、周りのスタッフさんは、YUIさんが撮影の前とあとでかなり変わった、と感じてるそうですから。
もしかして気を使ってくれました?(^^)
投稿: みっくん | 2006年10月 7日 (土) 21時03分
あ、ども再び。~o~;;
実は、今日のブログ書いて夕方、出かけたんですが、途中の電車の中で、あっ!『I remember you』は、『Good bye Days』のアンサーソングだって気づいたんですよ。
さらにお恥ずかしい話ですが、実は映画『タイヨウの歌』を見てないんです。いや~、忙しかったんで、と言い訳しときます。~o~;;
なんにしても、みっくんさんご指摘の通り、YUIにとって『タイヨウの歌』の撮影は、きっと何か大きな物があったんでしょうね。この撮影がキッカケになって、表現者YUIの世界が広がったんだとしたら、リスナーとしても嬉しいかぎりですね。
投稿: Mumyo | 2006年10月 7日 (土) 22時13分
お返事ありがとうございます。実はぼくも映画を見てなくて(恥)。お互い様ですね。でも、こういうふうに、YUIさんの心のこんな奥底まで考えてるところ、実はほかではあんまりないんですよね。おもしろいです(@_@)。
あっ、でも、ほかのことでもいいので書いてってくださいね(^^)。ぼくに気を使ってYUIさんの記事書いたのかとおもって・・・。もしそうなら、なんかすいません(-_-)。
投稿: みっくん | 2006年10月 8日 (日) 10時23分