薦めない理由~『古文の読解』小西甚一著
同僚講師が、先ごろ復刊された小西甚一著『古文の読解』を生徒さんに薦めていると聞き、ワタシも購入して読んでみました。
実は、この本、今まで全く読んでいませんでした。ワタシがこの仕事を始めた時には絶版になっていたと思いますし、ワタシが受験生の時には・・・、ワタシゃ古文の参考書なんて一冊も使わなかったので。~o~;;
んで、初めて読んだのですが、スゴイ本ですねー。ちとビックリしました。実況中継型参考書を先取りした口語文体にまず驚かされます。また、1981年改訂時の「はしがき」に示された満点を目指さず合格点を目指すというお考えや「太っ腹文法」という提案には大変共感をおぼえます。各章、各項目の説明も、大づかみなようでいて常に本質を踏まえた立派な説明だと思います。
しかし、にも拘らず、ワタシは絶対にこの本を受験生には薦めません。
まず、使われている受験問題が古過ぎます。復刻版の後ろの解説には、引用された受験問題の素性が明らかにされているのですが、年度の判っている物は、すべて昭和三十年代です。つまり、五十年前です。いくら何でも、もうこんな古色蒼然とした入試問題はどこの大学でも出しません。
改訂版には「共通一次の問題」も掲載されていますが、これとて昭和54年。ナント、ワタシが受けた試験です。~o~~O~
もし、こんな昔の問題の解法を今のセンター試験の対策だと思い込む受験生がいたら・・・、大変気の毒なことになります。なにしろ、小西先生は、「答案用紙に記入するための時間はわずかなのに、試験時間がタップリ与えられている」ものが客観テストだと考えていらっしゃるのですから。今の、ひたすら時間が逼迫するセンター試験とは全く別物です。
しかも、小西先生のご説明にも、現代では通用しない説明が含まれてしまいます。例えば、敬語。この本の中で、小西先生は謙譲語を「へりくだり」で説明なさっているのですが、この考え方は小西先生ご自身が、後に『古文研究法』の中で否定なさっているものです。
恐らく、もし、小西先生がご存命なら、こんな古めかしい本の復刻をお許しにならなかったのではないでしょうか。『古文研究法』の「改訂版あいさつ」で、あれほど改訂する良心を強調なさった小西先生が、この古色蒼然たる本を、改訂せずに出版されるはずがありません。
もし、この本を現代の受験生が間違って購入し、そのために余計な苦労をするようなことになったら・・・、それは、この本の「はしがき」に示された先生のお考えに完全に反していることになります。草葉の陰で小西先生はどれほど切歯扼腕なさることか。
それを思うと、絶対にこの本を受験生に薦める気にはなりません。単なる個人的なノスタルジーで受験生を迷わせるようなことは、小西先生の精神に反することでもあり、また、教師たる者のして良いことではないと、ワタシは考えます。
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コメント
はじめまして。受験生に勧める古文の本を探しているのですが、山本哲夫『やさしい古文』はどうでしょうか?
投稿: | 2012年3月13日 (火) 23時20分
ども、はじめまして。
つか、何とお呼びする方なのか判らないので、初めてなのかどうかも判らないのですが…。
ご質問の書籍なのですが、実は、全く存じませんでした。書店で探してみたのですが、1978年初版で2011年に重版とあります。もしかして、34年前に出版された本が最近になって、復刊されたということなんでしょうか。
肝心の中身ですが、僕は、参考書は「間違ってなければ○(2010・3・18の記事です)」という主義なので、この本で勉強したいという学生がいたら、別に止めはしません。
しかし、推薦するかと言えば、推薦はしません。活字が細かすぎて、読むのが大変ですし、ちょっと文法を軽く扱い過ぎています。文法を軽く扱うということは、それだけ受験生本人の読解力思考力に頼るということになりますので、この本で力をつけてくれる受験生を、ちょっとイメージできないのです。
投稿: Mumyo | 2012年3月15日 (木) 09時56分
お久しぶりです。
>それだけ受験生本人の読解力思考力に頼るということになりますので、
ということは、現代文が得意な受験生は古文でも文法にそれほど重きをおかなくてもできる、ということでしょうか?
私も大学受験のときは『土屋の古文単語222』しかやりませんでした。
それはそうと、洛陽社の古文参考書はこれだけあるようですが、この中で推薦できるものはあるでしょうか?
古文総合テスト7週間 エスカレーター式
864円(800円+税)2002年10月 ISBN 9784844200758
対照記憶古文単語の新研究 改訂版
永山 勇
940円(870円+税)2002年02月 ISBN 9784844200239
やさしい古文
山本 哲夫
1,296円(1,200円+税)1996年04月 ISBN 9784844200284
国文法の基礎 改訂版
永山 勇
1,512円(1,400円+税)2009年07月 ISBN 9784844200260
ルール48古文の解法
永山勇
583円(540円+税)1996年03月 ISBN 9784844200901
古文の総整理 きめ手中心
永山 勇
756円(700円+税)1993年05月 ISBN 9784844200666
古文単語記憶法
山本哲夫
583円(540円+税)1987年03月 ISBN 9784844201205
古文研究法 改訂版
小西 甚一
1,342円(1,243円+税)1965年12月 ISBN 9784844200000
蛇足ですが、教育学部や文学部の日本語日本文学専攻は、古文漢文のみの入試を実施してほしいと思います。将来の古文漢文教師を育てるためです。
中等教育では、第二外国語もしくは古文漢文を必修にすればいいと思います。
投稿: 英語講師 | 2014年5月 5日 (月) 15時56分
>ということは、現代文が得意な受験生は古文でも文法にそれほど重きをおかなくてもできる、ということでしょうか?
そうです。我々が受験生の時代には、しばしばそういう受験生がいたと思います。実は、ワタシもその一人ですから。
しかし、現代だとどうでしょうか。そこまで国語力のある子がいるのかどうか。ちょっと判りません。
>それはそうと、洛陽社の古文参考書はこれだけあるようですが、この中で推薦できるものはあるでしょうか?
『やさしい古文』と『古文研究法』については、このブログで触れたことがあります。
その他の本は所有していないので、ちょっと責任を持ったことが言えません。
投稿: Mumyo | 2014年5月 5日 (月) 17時55分
>しかし、現代だとどうでしょうか。そこまで国語力のある子がいるのかどうか。ちょっと判りません。
ということは、現代文においても「学力低下」が起こっているということですね。そりゃあ文章を読んで理解する能力というのは学力の基礎ですから、「学力低下」が叫ばれるなら現代文においてもそれが起きていて当然ですが。
現代文においても学力低下が起きているなら、その要因はなんでしょう?読書量の低下でしょうか?
あと、初等教育の日本語の授業で基本的な論理学を教えるべきだと思います。初歩的な論理が分かっていないので議論が成立しない人が多すぎます。しかもそういう人がMARCHクラスの大学を出ていたりする。明らかにそれまでの教育に欠陥があります。
投稿: 英語講師 | 2014年5月 5日 (月) 22時33分
>現代文においても学力低下が起きているなら、その要因はなんでしょう?読書量の低下でしょうか?
多分、そうだと思います。読書量を増やすべき小学校高学年から中学生くらいの時期に、携帯だのゲームだので時間潰してたら、そりゃ国語力は無くなりますよね。
投稿: Mumyo | 2014年5月 6日 (火) 10時29分
>読書量を増やすべき小学校高学年から中学生くらいの時期に、携帯だのゲームだので時間潰してたら、そりゃ国語力は無くなりますよね。
それとともに個人主義化・社会への関心低下ですよね。
私が大学生のころ、学生運動をしている学生が「新入生が毎年どんどん社会への関心が低下している」といっていたのを思い出します。
よく左翼は「青年が右傾化・保守化している」と言いますが、そうではなく「社会への無関心化・個人主義化が進んでいる」のだと思います。
投稿: 英語講師 | 2014年5月 7日 (水) 10時15分
正直言って、それは見当はずれな議論だと思います。
若者の「社会への無関心・個人主義化」は確かに進んでいるのだとは思いますが、それが国語力の低下に直接影響しているということは論理的に証明できません。無関係である可能性が高いと思います。
「国語力低下」と「社会への無関心」を無理やり結び付けようという議論は、英語教師さんがおっしゃっている「初歩的な論理」性が全くない議論のような気がしますが、そうお思いになりませんか。
投稿: Mumyo | 2014年5月 7日 (水) 11時04分
いや、私が書いたのは、「社会への無関心・個人主義化」と「国語力低下」が同時に起こっているということであって、この2つの間に因果関係があるということではありません。もしそのように読まれるような書き方をしていたなら改めたいので指摘してください。
投稿: 英語講師 | 2014年5月 8日 (木) 20時17分
>学力低下が起きているなら、その要因はなんでしょう?読書量の低下でしょうか?
>そうだと思います。
>それとともに個人主義化・社会への関心低下ですよね。
この流れだと、「学力低下」の要因が「読書量の低下」とともに「個人主義化・社会の関心低下」だと言ってるように読めますが…。
「個人主義」の話があまりに唐突に出て来るので、「同時に起こっている」とはとても読めません。
投稿: Mumyo | 2014年5月 8日 (木) 23時17分
>この流れだと、「学力低下」の要因が「読書量の低下」とともに「個人主義化・社会の関心低下」だと言ってるように読めますが…。
>「個人主義」の話があまりに唐突に出て来るので、「同時に起こっている」とはとても読めません。
ええ、そうですか?そのように読まれてしまうことにちょっと驚きました。
短い文章でも誤解の余地がないように書かなければならない、と再認識しました。
投稿: 英語講師 | 2014年5月 9日 (金) 06時11分
"この本の中で、小西先生は謙譲語を「へりくだり」で説明なさっているのですが、この考え方は小西先生ご自身が、後に『古文研究法』の中で否定なさっているものです。"とありますが、『古文研究法』の方が『古文の読解』より先に出版されていると思うんですが、、、
投稿: パパゲーノ | 2015年2月25日 (水) 14時23分
>パパゲーノさん
ナルホド。初版の発行日は『古文研究法』の方が古いですね。このあたりワタシも前後関係をよく理解せずに書いてしまいました。
しかし、敬語に関しては、『古文研究法』に示された考え方の方が明らかに進んでいます。それでブログ記事のような書き方をしてしまったのですが、ご指摘のように、「後に…否定なさっている」と言い切るのは無理があったかもしれません。
もしかすると、
『古文研究法』の初版発行1955年
『古文の読解』の初版発行1962年
馬淵和夫『古文の文法』(武蔵野書院)出版1963年
『古文研究法』の改訂版発行1965年
なので、改訂に伴って、『古文研究法』に馬淵和夫の新しい考え方が盛り込まれたということなのでしょうか。
投稿: Mumyo | 2015年2月25日 (水) 23時28分