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2011年7月 7日 (木)

はなに泣く姫君

 娘(仮称ケミ)の体温は、今朝はすっかり平熱に下がりました。その代わり鼻水が出ます。まあ、よかったとは思うものの、「突発」であることをちょっと期待していたパパママは内心ガッカリ。ただの風邪であったか。これでは、まだこれから、「突発」に罹る可能性が残っているってことです。

 でも、まあ、風邪もほぼ全快。食欲はあるし、活発によく動きます。鼻水を拭こうとすると嫌がって泣くということを除けば、普段のケミにもどってくれました。

 んで、唐突ですが、「はなに泣く姫君」といえば、某東北大の問題です。かなり無理矢理な振り方ですが、今年の某東北大の出題は、御伽草子『かざしの姫君』で、菊の花の精と契りを結んで最後は泣くことになる姫君の話です。

 問題文は、菊の花が帝に献上されることになり、菊の精の化身である少将が、姫君に永の別れを告げて去るところなのですが、少将が残した歌を見て、少将が菊の精だと知った姫君は、

 「花こそ散らめ、根さへ枯れめやと詠ぜしも、今身の上に知られたり。たとひ菊の精なりとも、今一度言の葉をかはさせ給へ」

と嘆きます。設問は、この「花こそ散らめ、根さへ枯れめやと詠ぜしも、今身の上に知られたり」に傍線を付して、「ここには姫君のどのような心情が込められているか」と問うのですが、これはいくら何でも無茶というものでしょう。

 傍線部は「・・・と詠ぜし」とあるので、誰かの詠んだ和歌を引用しているのは明らかです。さて、ここから受験生はアレコレと思い悩むことになります。

 まず、半分ほどの受験生が、この物語の中で少将か姫君が過去に詠んだ歌だと考えるでしょう。なにしろ、「詠ぜし」と<話者の直接体験の過去>を表すはずの「し」が付いているからです。このように考えてしまったが最後、受験生はこの和歌について様々な妄想をめぐらしては時間を費やし、最後に、一番あり得なさそうな思い付きに捕まってデタラメの答案を書くことになります。

 さて残りの半分の受験生は、この歌が何か有名な古歌ではないかと気づきます。しかし、そんな古歌に詳しい受験生などいるはずもなく、やはりアレコレと妄想をめぐらしてソレっぽいことを書こうとするのですが、素人の悲しさ、ろくな答案は書けません。

 実は、この歌は、在原業平の『古今集』『伊勢物語』『大和物語』などに載る有名な古歌、「植ゑし植ゑば秋なき時や咲かざらむ 花こそ散らめ根さへ枯れめや」の引用なのです。一首の意味は、”心を込めて植えたならば、秋のない年には咲かないであろうか、そのような年はないので毎年咲くだろう。花は散るだろうが、根まで枯れることがあろうか”という程度になります。

 出題者はこの和歌の引用に注をつけていません。ということは、引用された部分以外は考えなくて良いということでしょう。引用された部分だけを物語の文脈の中で考えて、「『花』=目に見える姿は消えても、『根』=存在の根幹は残っているのだろうという歌が身の上のこととして思い知られた」くらいに傍線部を解釈しておいて、「菊の精である少将は、姿は消えても、根は残り生きているはずだと信じていたい心情。」とでもまとめてやれば、答案としてはOKなのだろうと思われます。

 しかし、これは、あくまでも知識があって精神的余裕のある我々が考えること。ろくに和歌の知識もなく、精神的に追い込まれた試験時間中の受験生は、こうやって自分の知らないことを示された時、もしかして知らないのは自分だけで、他の受験生は常識として知っているのではないかなどと疑心暗鬼に駆られ、つい、和歌の内容について余計な想像をして墓穴を掘るはずです。だから、こういうところは絶対に注をつけてあげなければいけないのに・・・。また、やらかしてくれました、某東北大。~o~;;;

 なにしろ、某大手さんの解答速報などは、「別れを嘆きながらも再会を願う古歌に詠まれた心情を、我が身に重ねて共感する心情。」なんてやってます。「別れを嘆きながらも再会を願う古歌」って、どこから出てきたんだ?元歌はどう考えてもそんな歌じゃないのに。

 まあ、毎年のことながら某大手さんの解答速報は、見事に受験生並みの珍解答をひねり出します。例年だと、この解答を解説の中で誤答例として使わせてもらうのですが、今年は・・・、使えませんでした。~o~;;;

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コメント

久しぶりの古文解説。うれしいです。繰り返し読みました。
伊勢物語五十一。岩波ワイドで読んだのですがすっかり忘れていました。
元歌が引用されていたとしても、解釈はともかく、心情を察し文にする。難解です。
解答速報も専門家の方が元歌を参照し解答しているのですよね。古文は難しい。
難解さ解きほぐす良い方法は、たくさん、丁寧に、考えながら読む。これですか。

投稿: 侘助 | 2011年7月 8日 (金) 09時36分

 ども、書き込みありがとうございます。

 おっしゃるように、心情を察し文にするのは、非常に難しいです。しかも、単なる想像ではなく、問題文から読み取るわけですから。

 >難解さ解きほぐす良い方法は、たくさん、丁寧に、考えながら読む。これですか。

 まさにそれに尽きると思います。特に、「考えながら読む」これが難しいです。受験生にも機会があると、そのように指導するのですが、なかなか自分で考えてくれないですね。

投稿: Mumyo | 2011年7月 8日 (金) 21時35分

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