「そのうち徹底チェックして記事にしたい」などと書いた手前、やらないわけにもいかず、やってみました。始めから丁寧にNG。
んで、まず結論なのですが、「マトモな部分が多いし一生懸命なのは判るから、全面的否定は忍びない。しかし、このまま放置すると犠牲者が出る」って感じでしょうか。
ワタシの参考書に関する基本ポリシーは「間違ってなければ○」。したがってこの本もできるだけ許容したいのですが、このままだとかなり危険な部分を含んでいます。この本を信じきって人生狂わせちゃった犠牲者がきっといるはずです。まあ、ご本人は犠牲者だってことに気付いていないだろうけどね。~o~;;
なので、特別危険な個所だけを記事にします。では、危険度順に。
・危険度No.1 「らむ」の識別。
これは調子こいた予備校屋がよくやる誤りなのですが、「らむ」を、この人が言うように「直前の音が何かをチェックするだけで、一瞬で識別」なんてやっていると、次のような例で泣きを見ます。
<反例>「祭らむ」「つかうまつらむ」「塗らむ」「降らむ」「天がけらむ」「照らむ」「練らむ」「帰らむ」「奉らむ」「はべらむ」
これらは全て、「ラ行四段またはラ変動詞の未然形+助動詞『む』」です。でも、この人の言った通りに識別すると、ウ段音の下の「らむ」は<現在推量>になるし、エ段音の下の「らむ」は「り」+「む」になるってわけです。
特に、「たてまつらむ」と「はべらむ」は超頻出の形だし、入試的にも文法問題で聞いてみたい形ですが、この人の言った通りにやると、「『たてまつ』しているだろう」「『はべ』したような」などと訳すハメになるってことですネ。~o~ ~O~
・危険度No.2 「が・の」の用法の判断マニュアル①
コレ、申し訳ないけど、まるでデタラメです。『夢・雲・露・例』などの語が「『の』の上にあったら、『の』は比喩の用法だということです」と断言しちゃってるけど、反例はとても簡単にみつかります。次のような例が出てきたら、どうしようっていうんでしょう。
<反例>「夢の通ひ路人目よくらむ」「雲のあなたは春にやあるらむ」「紫だちたる雲の細くたなびきたる」
いずれも有名な和歌や文章の一部です。入試で使われたっておかしくありません。「夢のような通い路」「雲のようなあちら側」「紫かがった雲のように細くたなびいている」なんて解釈するんでしょうか。誰が考えたって、こんなマニュアル危な過ぎて使えません。
・危険度No.3 「めり・なり」~二つの「なり」
四段動詞に接続した「なり」を見分けるのに、上の語が、「『耳関係』の動詞(「言ふ・聞く・伝ふ・鳴く」など)だったら、『なり』は『伝聞・推定』」などと上の動詞だけで判断するのはかなり危険。たとえば、『枕草子』「職の御曹司におはしますころ」に、次のような例がある。
<反例>「なま老いたる女法師の・・・、猿さまにていふなりけり」
ここは、清少納言が出て行って女法師を見て「猿さまにていふ」と言う判断をしているので、<伝聞・推定>にはならない。そもそも、「なりけり」の「なり」が<断定>というのは、結論が出ていることである。
また、「『なり』の上の『体言』が場所・地名だったら、『なり』の意味は『断定』でなく『存在』になるんです」というのも危険。これらは、「なりやすい」くらいなら言えるのだが、「・・・です」と断言できることではない。
・危険度No.4 「に」の識別~付属語「に」の識別マニュアル
この「マニュアル」は、「絶対」と「確実」を「なりやすい」と読み替えてあげれば、なんとか使える。しかし、「絶対」と思い込むと例外が出て来て足元をすくわれる。たとえば、『平家物語』「継信最期」に次のような文がある。
「黒き馬の太うたくましいに、黄覆輪の鞍置いて、かの僧にたびにけり」
「たくましい」は、形容詞「たくまし」の連体形のイ音便形。「連体形+に、」の形だが、この「に」は明らかに格助詞。この人の言うことに従えば、「ほぼ確実に接続助詞」にならなければならないのだが・・・。
ちなみに、今の『平家』の引用は小学館日本古典全集によったが、他の注釈書でもここは「に」の下に「、」を打っているはずである。
・危険度No.5 「る・らる」~「る・らる」の意味を一発で判別する方法
ここに関しては、すでに11月10日の記事で触れています。
危険度の高そうなのは、この辺でしょうか。他の部分にもちょこちょこ間違いはありますが、まあ、いちいち指摘しているとキリがないので。
しかし、なんだって、こんなに「なりやすい」を「絶対」「確実」と言いたがるんでしょう。察するに、私文系の選択式の文法問題は、短い選択肢で判断させねばならないために典型的な形の例文を使いやすく、そのような選択肢であれば、「なりやすい」を「絶対」と言い切っても、解けることが多いんでしょう。この人は、そういう問題をたくさん解説し過ぎて、古文の文章を丁寧に読むということを、あまり授業の中でしてこなかったんではないでしょうか。
しかし、そういうやり方は、私文系の文法問題では通用しても、文章自体の読解を求めるセンター試験や国公立二次では全く通用しないはず。某T進さんにだって、国公立志望の子はいるんでしょうにねえ。
最後に思い切り間抜けなNGを一つ。「る・らる」の説明で、現代語「れる」に<可能>の意味があることを説明しようとして、「これで心おきなくそこに行ける」を例として出しているけど、「行ける」は可能動詞だぞー。助動詞じゃないぞー。そんなことも判らずに古典文法の本、書いてんのか、コイツっつ。~o~~O~
<後日記>
早速、危険度No.5に、案じていた通り犠牲者が出てしまいました。センターだけに影響デカかったでしょうねえ。
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