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2018年2月 3日 (土)

巧妙な登山道路~『〇冊読むだけで古文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』

 先日、「宅浪」さんから相談のあった本を購入して調べてみました。
 
 タイトルから考えて、そうとうヤバそうな内容を想像しました。美人講師を売り物にしているらしいし、こりゃ、買ってはいけないのリスト入り決定だろな。
 
 と思ったのですが、全く予想外にしっかりした本です。内容的にヤバいのは、「主語把握基本四大ルール」の1と2。それに、「読み方」のルール5の「『助動詞』に注目!」だけ。
 
 「主語把握基本四大ルール」の1は、完全に某有名講師Aのパクリでしょう。しかし、「たまに『が』ではなく、『を』や『や』になることもあります」と書いている分だけAよりはマシか。
 
 「主語把握基本四大ルール」の2は、某有名講師Aさえ98%の可能性と言っているものを、例外なしに実現するように書いているのは、ちと罪が重いです。
 
 「読み方」のルール5の「『助動詞』に注目!」の「『き』の主語は『自分』」 ってヤツは噴飯物。p217で引用されている『とはずがたり』で、「消え果て給ひし」「うち笑み給ひし」「所なくおはせし」などと尊敬語に「き」が接続している例をどう説明するつもりなんだかね、この人。~o~
 
 しかし、上記三つの明らかな誤りを除けばヤバい誤りはなく、文法の詳細な説明が欠けている点を除けば、タイトル通り「読み方&解き方」の本として悪くない本だと思います。巧妙な参考書だとさえ言えます。しかし、ワタシは教え子さんにこの本を推薦しません。教え子さんが持って来たら、使ってはいけないと言うでしょう。
 
 なぜなら、この本に記されているような、読み方や解き方の「ルール」を決めて形だけで読解や解答する方法論には限界があるからです。著者の想定する範囲の文章、想定する範囲の出題から外れてしまうと、手も足も出なくなります。最初から、限界が低いのです。
 
 しかし、だからと言って、ワタシはこの著者を責めません。著者は、本著冒頭の「この本の特徴」ページで「この本の対象レベル」として、「センター試験75~80%の得点率をねらう高校生・受験生」「GMARCH 関関同立南山大などの私立上位校をねらう高校生受験生」「偏差値50半ばの国公立中堅校をねらう高校生・受験生」とハッキリ本著の対象レベルを示しているからです。
 
 つまり、最初から東大京大や早稲田上智を受ける受験生は相手にされていないのです。最初から、古文がまるで苦手な受験生にある程度の点数を取らせることを目的として書かれている本なのです。
 
 これを例えると、富士山の登山道路のようなものでしょう。富士山には登山道路として「富士山スカイライン」という舗装道路が通っていて、五合目まではマイカーやバスで誰でも簡単に登れます。ちょうど、この本の読者が、ある程度の難易度の模試において、誰でも簡単にある程度の確率である程度の点数を取れるように。
 
 ところが、そこから上を狙いたくなった時に、この本の著者が想定していない文章、想定していない設問が待っていることがあります。それまで簡単に読めて解けただけに、そこから上の設問対して歯が立たない自分にどうしてよいか分からず途方に暮れることでしょう。ちょうど、バスで五合目まで行った普段着の人が、もっと上に上りたくなって愕然とするように。
 
 登山する装備も登山する体力もない人が五合目から上を目指したら、そりゃ途方に暮れるしかないでしょう。でも、「富士山スカイライン」に対して苦情は言えませんよね。最初から五合目までと示されている道路なのですから。
 
 この本についても同じこと。最初から「この本の対象レベル」が示されている以上、そこから上を狙いたくなって途方に暮れても、文句は言えません。
 
 そういう意味でもこの本は巧妙に出来ています。
 
 ワタシが教え子さんにこの本を勧めたくないのは、ウチの予備校にこの本の対象レベルの子が多くないということもあります。が、この本の妙にプロフェッショナルな巧妙さは、全くワタシの好みではないということが最大の理由かもしれません。

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