あいなき御達の雑感
このところ、二学期開講のためのプリント作成の日々です。
毎年、二学期開講時に単語リストとテキストの索引を配布しています。この索引を作成しているといつも思うのですが、単語リスト一番の「あいなし」ってウチのテキストには出て来ないよなぁー。
「あいなし」は、アイウエオ順に単語を並べると重要単語の一番になってしまうので、その関係で大抵の単語集の一番最初に載っています。アイウエオ順の関係なさそうなゴロ合わせの本にさえ一番に載っています。にもかかわらず、ウチの通常授業のテキストにはもう何年も載っていません。
これは、もちろん、ウチのテキストに欠陥があるという話ではありません。ウチのテキストには入試に出題されそうな文章、あるいはすでに出題された文章ばかり採用されているので。「あいなし」は入試においてそれほど頻出ってわけじゃないんじゃないかしらん。
主要な大学の入試問題を毎年チェックしているワタシの感覚から言っても、「あいなし」は、そんなに入試頻出単語と思えないのですが、でも、ほとんどの単語集では重要単語一番です。
新たな単語集を編集しようとする時に、既存の単語集をたたき台にすると、アイウエオ順一番のこの単語は切りにくい…ってことなんですかねえ、どうも。~o~;;;
では、なぜ最初の単語集に載っちゃったのかというと、『源氏』『枕』などの有名作品で印象的に残る場面に出て来るから…かもしれません。『源氏物語』桐壺巻冒頭近くの、
「上達部、上人などもあいなく目をそばめつつ、いとまばゆき人の御おぼえなり(上達部や殿上人なども皆むやみに目を背けて、まったく見ていられないほどのご寵愛です)」
なんかがあるからでしょうかねえ。
こういう重要単語とされている語とは逆に、全く単語集等で扱われない語が出題されてしまう場合があります。今年の某東大の問一のアなんががソレ。「御達(ごたち)」なんて、どの単語集にだって載ってません。
あまりに重要単語扱いされていないので、某東大受験指導専門塾T緑会の過去問本では、「東大の教員はモノの判った人達だから、『御達』は採点対象外か」などと言いだす始末。
ちなみに、この部分の解説文原文が、「採点の対象外とされなかったのではないか」とあるのを見た時には、一分間凍りました。あんまり国語が得意じゃない御仁が書いたんでしょうかね。~o~;;;;
閑話休題。採点対象外と言われても仕方ない出題でしょう。「御達(=女房・御婦人方)」は、珍しい単語です。
しかし、これを出題した人の身になると、なんとなく理解できなくはありません。「御達」は、一般的な古典作品ではレアな単語ですが、物語文学では、そこそこ出て来ます。『源氏物語』では、「悪御達」「古御達」「ねび御達」などを合わせると二十回ほど出て来ます。特に、「竹河」巻冒頭の、
「これは、源氏の御族にも離れ給へりし後の大殿わたりにありける悪御達の落ちとまり残れるが問はず語りしおきたる…(これから語るのは、源氏の御一族からは縁が遠くていらっしゃった後の太政大臣のお邸あたりに仕えていた口さがない女房達の、まだ生き残っていた者が問わず語りに語っていたもの)」
という一節が源氏物語の文体論でよく扱われる研究者に馴染みのある印象的な用例なので、ねえ。
出題者は、『源氏』の研究で有名なT木さんでしょう。
「御達」くらい聞いても良いでしょ。
って思ったとしても、まあ理解できるかな。
というわけで、某東大受験予定の諸君、「御達」は、採点対象だったはずです。文脈から読み取ってください。~o~
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